小売DXという言葉から、AIカメラや無人レジを思い浮かべる人は多い。ローソンの「LAWSONマチの本屋さん」は、その逆方向から店舗の未来を考えさせる。

6月、ローソンは横浜市泉区緑園に書店併設店舗を開いた。通常のコンビニ商品に加えて約8,000タイトルの本・雑誌を扱い、売場364.97平方メートルのうち約106.78平方メートルを書店部分に使う。

技術的に派手な仕組みではない。

しかし、この店舗が置かれた地域には登録上の書店がない。ローソンによれば、2025年度の国内書店数は前年から424店減って9,993店となり、書店が一軒もない自治体は498、全市区町村の28.6%に達している。

ここでコンビニの店舗網が別の意味を持つ。

日本のコンビニは、商品を売るためだけに最適化された箱ではない。ATM、宅配便、チケット、各種支払いなど、すでに複数の生活サービスを積み重ねてきた。書店併設は、そのプラットフォームに別の機能を載せる試みだ。

ローソンは2021年に「LAWSONマチの本屋さん」1号店を開き、今回を含め書店併設店舗は32店舗になった。一部店舗では雑誌を含む書籍カテゴリーの売上が全国のローソン平均の約15倍になっているという。これは会社側の数字であり、店舗全体の収益性を示すものではないが、地域によっては書籍需要を既存コンビニ網で拾えることを示す。

このモデルは、リテールテックの文脈でも重要だ。

店舗のデジタル化はしばしば「同じ店舗を少ない人で運営する」ことに集中する。セルフレジ、発注AI、ロボット、遠隔接客などだ。一方、もう一つの方向は「同じ店舗により多くの機能を載せる」ことだ。

後者では、テクノロジーの役割は前面に出ない。

本の在庫管理、発注、POS統合、店舗オペレーション、地域需要の予測など、複数カテゴリーを一つの拠点で扱うための裏側が重要になる。将来的にはオンライン注文と店舗受け取り、地域ごとの品揃え最適化などを組み合わせる余地もある。

ただし、何でもコンビニに入れれば成功するわけではない。

書店スペースは通常の商品棚を減らす。8,000タイトルを持てば在庫回転と返品管理も必要になる。書籍販売の粗利や物流構造はコンビニ商品と異なる。ローソンが示す約15倍というカテゴリー売上だけでは、スペース生産性が他カテゴリーより高いかは判断できない。

それでも、日本の人口構造と地域サービス縮小を考えると、この実験には戦略性がある。

人口が減る地域では、専門店を単独で維持できなくても、高頻度で利用されるコンビニに機能を集約できる可能性がある。自治体や学校、図書館との連携まで広がれば、店舗は単なる販売拠点ではなく地域サービスの物理APIのような存在になる。

AIによる無人化とは別の未来だ。

店舗を消すのではなく、すでにある店舗網の利用価値を増やす。

小売のテクノロジー戦略は、常に新しい機械を入れることではない。既存のネットワークを別の用途に再設計することも含まれる。

ローソンの本屋併設店は、そのことをかなり分かりやすく見せている。

書店併設という選択は、コンビニの既存オペレーションに異質なカテゴリーを足す難しさも示す。本は賞味期限こそないが、タイトル数が多く、回転率の差が大きい。通常のコンビニ在庫と同じ感覚では管理できない。トーハンとの連携は、ローソンがその専門性を外部パートナーから取り込む構造だ。

この考え方は他の地域サービスにも応用できる。コンビニがすべてを自前で運営する必要はない。物理拠点、決済、営業時間、スタッフという共通基盤を提供し、専門機能をパートナーと組み合わせる。プラットフォーム戦略をソフトウェアではなく店舗で実行しているとも言える。

もちろん、地域課題を理由に赤字サービスを積み上げれば持続しない。32店舗という規模は、まだ全国フォーマットとして完成したことを意味しない。ローソン自身も拡大を目指すとしている段階だ。

だからこそ今後は、書店ゼロ地域での来店頻度、書籍購入者のコンビニ併買率、売場当たり利益、物流費などを見たい。地域インフラとして評価されることと、小売フォーマットとして利益を出すことは別の問題だからだ。

店舗の未来を考えるとき、無人化率だけをKPIにするとこうした可能性を見落とす。人が来る理由を増やすことも、同じくらい重要な店舗テクノロジー戦略である。